2013年11月17日日曜日

203:ドイツを基地とした「アメリカの秘密戦争」(2)ドイツ政府も米スパイ産業に重要なハイテク業務を委託。日本を米スパイ産業の輸出天国にしてはならない

 南ドイツ新聞の連載の「アメリカの秘密戦争」第2弾/11月16日は、「どのようにCIAなどが、民間企業に厄介な業務委託をしているか=ドイツ国内でも」との見出しです。

Süddeutsche Zeitung 16/17 Nov.2013

 リードは「彼らは、拷問し、誘拐し、スパイをする=アメリカの諜報機関は、すでに長い間、不愉快な仕事を民間諸企業に請け負わせている。そのかなりの企業はドイツ内でも活躍している。そして彼らはアメリカのためだけではなく、ドイツ政府の業務を請け負っている」というものです。
南ドイツ新聞特集のロゴ
同紙は、昨日から始まった連載に左の写真のようなロゴを使用していますが、これはドイツの新聞では珍しいことです。無人機とその照準標的の図案に、「秘密戦争/ドイツ内のアメリカの陰の軍隊」との文字をあしらったロゴです。
 米軍は、バイエルン州の基地に少なくとも、57機の無人機を駐屯させており、その指令とオペレーターの本部は、シュットットガルトとラムシュタインの米軍基地にあるとのことです。
これについてはドイツ公共第一テレビのニュースで筆者のジョーン・ゲッツ氏がインタヴューで→14日に指摘しています。
アフリカや中東方面への作戦がおこなわれていることが明らかであるとし、ソマリヤやイエメンへの無人機攻撃で、何の罪のない妊婦や民間人が多勢犠牲になっていることは、これまでも明らかになっているとおりです。
今年の6月にドイツを訪問したオバマ大統領は「ドイツから無人機の作戦は行われていない」と否定していますが、これは嘘であることは間違いないと報道されています。

 さて、今回の特集では、図表でCIAやNSA以下のアメリカの7つの諜報機関の年間予算を示し、なんとその70%もが軍事産業と民間企業への委託業務のため支出されていることが示されています。なんとドイツでの支出は、アフガニスタンでよりも多いとのことです。
 
 それら民間情報技術/IT会社は、ドイツ国内の米軍基地の近くに支店があり、そのひとつヴィースバーデンを本拠とするCSC社/Computer Sciences Corporation は、キリスト教民主同盟の国会議員も取締役とする現地法人を設立、顧客としてはダイムラー、アリアンツなど民間大企業だけでなく、政府内務省の暗号ソフトの開発、法務省の裁判所の公文書電子化など非常に多くのを業務を請け負っているとのされています。
 
 内務省は、これに対し「秘密維持の契約があるので問題はない」と取材に対して回答していますが、さきほどのラジオでのニュースでは、元NSAのアメリカ人職員が「そんな言い逃れは、笑うべきことだ。秘密保持が実際に行われているかどうかコントロールはされていない」とアメリカ英語で答えていました。
 
 つまり、ドイツ政府は国民の税金を使って、アメリカ情報機関の民間子会社に秘密維持の中心的技術の業務依頼を行っていることになります。グルというべきか、滑稽というべきか。外国のスパイ技術産業に国家機密維持の中枢を任せているに等しいのが実態であるようです。

政府報道官ザイベルト氏 15.Nov.2013
イラク戦争以来ブッシュ政権は、特に国際法違反の汚い軍事行動を、ブラックウオーターなどの民間会社の民兵に委託していたことは、周知の事実です。
 ここにきてアメリカのスパイ業務も、大規模な民営化が行われ、特にドイツがその重要な取引相手であることの実態の全体的輪郭が明らかにされつつあるようです。

 昨日、南ドイツ新聞の暴露の第1弾が出された日の、定例の政府記者会見で、ザイベルト報道官には、「読みましたか」、「ドイツからアメリカはテロ容疑者を誘拐したり、拷問した事実を把握しているか」などの、質問が相次ぎました。前者には「Ja 」後者には「Nein」と答えました。
 彼も元は公共テレビのジャーナリストですから、これらの暴露に関しては「この調査報道の枠内で、新たなきっかけや、新たな事実、または新たな見解が登場すれば、ドイツ政府は真剣に受け止めます」と述べました。写真のように回答に考え込む姿も、これから増えることでしょう。
 なを同日、アメリカ大使館はドイツからの誘拐や拷問の疑いの一連の報道に対し「とんでもない主張だ」と否定しています。
 
 次の月曜日には、南ドイツ新聞は第3弾として「なぜフランクフルト空港でアメリカの機関が、だれが搭乗を許されるか決定できるのか」についての暴露があると予告されています。

なお、南ドイツ新聞はこの連載の一部と関連を電子版の→英語版でも報道していますのでご覧ください。

 ところで、これまでの報道で、わたしがあらためて考えさせられるのは、以下のことです。

 1)集団自衛体制の危険性

 ひとつは、アメリカとの軍事同盟の怖さです。冷戦後、確かにNATO軍のドイツ国内の駐留軍の数は大幅に削減されましたが、アメリカは「テロへの戦争」で、冷戦時の既得権の枠内で、内実を変えているだけで現在もドイツが、世界戦略の最前線であることは変わっていないことが明らかになりました。沖縄のような冷戦時そのままの大規模な基地は無くなりましたが、最前線であることには代わりはないことが明らかになりました。特にドイツは分断国家として冷戦時、NATO集団安保体制下で、自立性を奪われていましたが、そのくびきが今でも残ったままです。集団自衛権の危険性がここにも明らかです。

 2)悪の民営化による肥大化
  もうひとつは、情報機関の下請けとしてインターネット技術を軸とするハイテクスパイ産業が、アメリカの新たな陰の輸出商品として制御できないほど肥大化していることです。
これは、悪の民営化の結果ともいえます。権力が汚れ仕事を下請けに出すシステムの現代版といえましょう。 スト破りにヤクザを動員したり、フクシマの事故処理の末端にヤクザが入り込む構造の現代版です。放置すれば肥大化は亢進し、無法状態となり罪のない犠牲者を餌食にしてやがて自滅します。日本は現政権が進んで餌食になろうとしています。ドイツは、メディアの健全な免疫抵抗力でそれから逃れようとしています。

この肥大化は、ジンギスカーンが、駅伝の優れたロギスティックで帝国を拡張し、その後蒙古帝国が一挙に元の木阿弥になった歴史にそっくりです。アメリカの西部開拓史もよく似ていますね。

 3) 民主主義の窒息
日経新聞も→今日の社説で特別秘密保護法案を廃案にせよと主張しましたが、防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野が、特定秘密に指定されれば、今日のドイツでの報道の内容は全くできなくなります。日本がアメリカの情報機関の下請け企業の輸出天国になることは間違いないでしょう。民主主義を窒息させるネオコンのイデオロギー実践のたどり着く結果です。

 4)主権の放棄
 それによりこの法律の陰で、国家機密がアメリカのものとなり、事実上主権を売り渡してしまう事態も起こるのでないかと危惧されます。岸信介総理が1960年、日米安保改訂の際、CIAから現金を受け取っていたことは証明されています。その行く着く先が、特定秘密保護法案であるのでしょう。まさに主権放棄の売国法案です。

 以上ですが、今回のこのドイツメディアの調査報道は、以上のように範囲も広く奥も深く、日本にも直接間接に大きな影響があります。
明日うらしまの老爺心の蛇足ですが、特派員が少ない日本のメディアの支局では、とてもフォローが難しくなるのではないかと心配です。各社とも専門記者の何らかのかたちでの援助が必要ではないでしょうか。



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