2017年9月10日日曜日

330:ドイツのメルケル首相が北朝鮮との核問題で仲介の意思を表明「喜んですぐにも始めたい」

 本日、9月10日、ドイツメディアが一斉に報じていますが、本日付フランクフルター・アルゲマイネ日曜新聞(F.A.S)のインタヴューで、メルケル首相が緊張を高めている北朝鮮との核問題で解決に向けた話し合いの仲介をする意思があると表明しています。

メルケル首相、夏休み明けの記者会見8月29日Photo:T.Kajimura
インタヴューでは、北朝鮮の核兵器開発と長距離弾道弾の開発を制御するための話し合いの枠組みを作りの仲介を「望まれれば喜んで直ぐに始める用意がある」と述べています。

では、電子版では読めないインタビューの発言部分を翻訳しておきましょう。
これが同紙の本日の一面で、発言とその背景の解説がトップ記事として「メルケル北朝鮮でイニシアチヴを執る」の見出しです。
FAS紙2017年9月10日トップの報道
 総選挙を前に選挙戦の最中のインタビュー本体は2、3面の見開きを使った非常に長いものですが、この発言は終わりの質問に答えたところで出てきたものです。

(以下翻訳)

質問:別の論点ですが:北朝鮮の問題です。ヨーロッパは関与を避けるべきでしょうか?

 
 北朝鮮政府の国際法に違反する核兵器開発への対処は、北朝鮮がここから遠くにあるとしても、ヨーロッパにとっても重要な問題です。私は外交的解決にしか可能性はないと見ています。誰しもが、ある地域全体が軍備拡張の悪循環に陥ることなど願うことはできません。ヨーロッパもまた統一した見解を示し、外交的解決に取り組み、そして制裁に関する行程で全力を挙げるべきです。



質問:イランとの交渉の席にはドイツも国連安保理の常任理事国でないにもかかわらず着いていました。首相には北朝鮮の件においても、これが想定できるのでしょうか?

 
 もし交渉での会談に私たちの参加が望まれるならば、私は喜んで直ぐにはい(Ja)と言います。イランとの交渉は、私が首相になる前から始められており、昨年になってようやく良い結果を迎えました。非常に長い時間がかかったとはいえ、しかしそれは外交にとって重要な時間であったのです。私にはこのような枠組みが、北朝鮮との争いの解決に関しても考えられます。ヨーロッパ、特にドイツはこれに関して積極的な部所で大いに貢献する心構えを持つべきです。
(訳責;梶村)
  
 解説しますと、放置すれば、絶対に避けるべき武力衝突はもとより、韓国や日本も核武装に向かい、世界中の核軍縮の枠組みが破壊されて、取り返しのつかない危機が迫っていることを、メルケル氏はよく認識しており、この件で先の水爆であった可能性のある核実験の後も、米韓日中の各首脳と電話会談をしており、明日の11日月曜日には、ロシアのプーチン大統領ともこの件で話し合う予定であると、同紙は伝えています。
 
 何しろトランプ政権は不安定でそれ自体が一方の危機要因であるところ、プーチン大統領がメルケル首相の考えに同意すれば具体化する可能性は大きいのです。メルケル政権と中国政府との関係はここでも何度か書いていますが、以前から非常に良いものです。 この関係は続いています。

 メルケル首相のこの意思表明の背景には、

 (1)ドイツは、イランとの核開発制限交渉に加わり、核保有大国である国連安保理常任理事国5カ国との間の交渉を長年の調停役として果たし、ついに成果をもたらした外交経験があること、
(2)またドイツは、旧東ドイツの置き土産として北朝鮮との外交関係を維持しており、ベルリンと、ピョンヤンにはそれぞれ大使館があり、この件では独朝の政府間で直接交渉できる立場にあることなどが挙げられています。
 この報道では、独政府筋は、この外交ルートですでに両国間の話し合いが始められていることを示唆したとのことです。


ベルリンの北朝鮮大使館 写真:Wikipediaより
ベルリンは北朝鮮の大使館があることから、過去にも米朝会談や、日朝会談が行われたことがあります。
在ピョンヤンのドイツ大使館 写真:Wikipediaより

 2週間後の日曜日の24日にはドイツでは総選挙がありますが、メルケル首相の続投は間違いないとされているところから、この発言となったものと思われます。
 上の写真の夏休み明けの90分の記者会見でも、彼女は世界中の数百人の記者からの約80の質問に対して丁々発止と答えて、隙を見せない貫禄を示したものです。
  
 成り行きによっては、緊急性からして選挙後に新政権ができるのを待たずにドイツ仲介に向けて交渉が本格的に始められるかもしれません。

 それにしても、本来ならば、被爆国であり非核三原則を原則とし、また隣国で当事者でもある日本政府こそが、このような話し合いの仲介、調停をするのに最もふさわしいはずです。
 しかし、非常に残念なことに、拉致問題に拉致されてしまい、北朝鮮に対する危機感だけを煽ることしかできない視野狭窄の安倍政権にこのような大人の外交を期待することはとても無理です。せめて安倍首相にはメルケル首相の爪の垢でも煎じて飲んで欲しいものです。

 ですから安倍氏に期待したいことは、ドイツの仲介と調停努力に関して、せめてその足を引っ張ることだけはしないでほしいことだけです。

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(9月11日追加)
 本日、ドイツ政府のザイベルト報道官は、メルケル首相がプーチン大統領と電話で話し、
北朝鮮問題は平和的方法で解決されるべきであること、また北朝鮮が話し合いに応じるよう国連安保理の新たな制裁決議の実現が急がれることで両者は同意したと述べました。

 またウクライナのドンバス地域の紛争の地帯での国連視察団に関するプーチン大統領の提案に、メルケル首相は基本的に同意したとのことです。
 

2 件のコメント:

  1. 安倍は子どもじみた海外どさ周りで醜態をさらすばかり。プーチンとの会談でも何らの成果はないにもかかわらず、北朝鮮への制裁で共通の認識に達したなどと訳のわからぬことを言うだけ。にもかかわらず安部の支持率が回復しているのは、われわれ日本人の民度の低さ以外の何物でもありません。情けない限りです。
    それに反して、メルケルの大人対応には感服いたします。メルケルが東アジアの平和への大きなキャスティングボードを持っていることがよくわかりました。日本のマスコミからは全く知りえない貴重な情報を梶村さんの報告から知ることができ感謝です。

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  2.  これについては日本の共同、時事を始め各紙の特派員も報道したのですが、なんでもネットだけで、本体の紙面にベタ記事にもならなかったのがほとんどだったようです。ある特派員が嘆いていました。

     つまり、各社の外報、外信のキャップがその重要性を理解できないのです。これも日本の市民が情報の空白の中に置かれる大きな理由の一つです。
     今朝、先ほどドイツの外交シンクタンクの専門家に質問したところ、わたしが上記したとほぼ同じことを述べていました。
     近いうちにしかるべきところでこの件も詳しく重要性を報告したいと思っています。それを読んでようやく重要性に気づくのでしょう。

     ドイツの歴史認識、脱原発、再生可能エネルギー、すべてわたしの報告だけとは言えませんが、後から訳も分からず、誤解も交えて追いかけるのが残念ながら日本の主要メディアです。
     だから賞味期限が過ぎた、しかもまがい物の記事が多く、それを未だに「舶来」としてありがたがる日本の読者は気の毒です。

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